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アンブシュアは鍛えられない [定説を考える]

時々「長い時間吹いていると口が締まらなくなって息が漏れてしまうのですが、どうしたらアンブシュアを鍛える事ができますか?」と言う意味の質問をされる事があります。

この時の私の答えは決まっています。
「アンブシュアを鍛える事はできません。」
です。

良く教則本に「笑った様な口の形で・・・」の様な説明でアンブシュアを説明している事があります。
これが誤解を招くのです。


口の周囲にある筋肉は顎の筋肉と表情筋です。
顎の筋肉は鍛えられますが表情筋を鍛える事はできません。
表情筋の筋肉は心臓の筋肉と同じ種類のものだからだそうです。

もし、心臓の筋肉が動けば動く程増えたり大きくなっていったらどうでしょう?
次第に心臓は筋肉の塊になり心臓の機能を果たさなくなるでしょう。
心臓の筋肉はいくら動いても増えたり大きくなったりしないのでこの様な事が起きないで済むのです。



話を戻しましょう。
「笑った様な口の形で楽器を吹く」と言うのは「表情筋でアンブシュアを作って楽器を吹く」と言う事になります。
表情筋は鍛えようと思っても鍛えられない筋肉なのでこれは理論的に無理がある訳です。
プロが長い時間”疲れずに”楽器を吹けるのは”筋肉が強い”からではなく、”筋肉が疲れない様に”楽なアンブシュアで吹き、その為に”筋肉を効率よく使っている”のです。



「それでは顎の筋肉を鍛えれば良いじゃないですか。」と言う人もいます。
確かに、顎の筋肉は鍛える事が出来ます。
しかし顎の力を使ってリードに圧力を加えると言う吹き方はリスクが多すぎるので私はお勧めしていません。
顎で圧力を加える吹き方のリスクは次の通りです。

○唇を痛めたり切ったりする
○顎に負担をかけ顎関節症になる確率が高い
○音色、音程のコントロールが出来ない
○高音域の音が出ない(または汚くなる)
○速いタンギングが出来ない(もたつく)
etc.



最初(初心者の頃)は良いのですが一生懸命練習しても上手くならない(高度な技術が習得出来ない)事が多くこれが原因で挫折している方が沢山います。
しかし、私が一番心配しているのは健康面です。

唇にはリードをコントロールする為に大切な神経が沢山あります。
吹く度に痛めたり切ったりしている間にこの大切な神経迄痛めてしまったらリードのコントロールが出来なくなってしまいます。

歯に紙を巻いたり樹脂製のクッションを装着すると唇を痛めたり切る事はなくなりますが、痛くない分圧力をかけてしまい顎の負担も増えてしまいます。
この様な吹き方で(一生懸命)練習している人達の多くが顎関節症(予備軍含)になる確率は非常に高くなります。
顎関節症になったら大好きな楽器を吹く事はできなくなってしまいます。

紙等を巻くのは唇を痛めても吹かなければならない様な時それを悪化させない為に使う程度にとどめるべきです。
つまり怪我をした時の絆創膏の様な使い方です。
紙等を巻かなければ唇を痛めてしまうのであれば奏法を変えるべきです。


つまり顎を鍛える事は出来ますが、アンブシュアに関しては鍛える必要がないのです。
トレーニングするとしたらいつも同じ位置にキープする練習と前後左右自由に動かせる様な柔軟性を養う練習です。

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速いフレーズの練習 [定説を考える]

速いフレーズ(パッセージ)を練習する時皆さんはどうしてますか?

一番多いのが最初はゆっくり練習し、少しずつそのテンポを上げて行くと言う方法ではないでしょうか?
この際リズム練習等も併用する場合が多いと思います。

この練習方法は多くの方が利用していますし説得力もありますが、実際にはあるテンポからは速度が上がらない方が多いのではないでしょうか。
実はこの練習方法は速吹きが得意な人や元々吹けていたフレーズを練習する時には良いのですが、速いフレーズが苦手な人の練習方法としては問題があるのです。


スポーツ・トレーニングの知識がある人ならご存知でしょうが、筋肉には「速筋(白筋)」と「遅筋(赤筋)」があります。
速筋は瞬発力を引き出すのに有効な筋肉で無酸素運動の時によく使われます。
それに対し遅筋は持久力を引き出すのに有効な筋肉で有酸素運動の時によく使われます。

速筋のトレーニングは高負荷低回数が効果的で、遅筋のトレーニングは低負荷高回数が効果的です。
性質もトレーニング方法も全く違う筋肉なのです。


勘が良い方はもうお分かりですね。
ゆっくりから少しずつテンポを上げて何度も練習すると言うのは遅筋のトレーニングなのです。
遅筋は速い動きには向かない筋肉ですから、いくら一生懸命練習しても速度の限界はすぐにやってきます。
個人差はありますが♩(4分音符)=100〜110(1分間に100〜110回)の速度で16分音符を吹く位の速さが限界でしょう。

これ以上の速度のフレーズを練習する為には速筋を鍛えなければなりません。

速筋のトレーニングにはある程度の知識と工夫が必要になります。
また、高負荷低回数のトレーニングが効果的なのでダラダラと練習しても意味が有りません。
専門家の指導が必要になる訳です。

吹奏楽部等に所属している方で次の様な経験をした事はありませんか?
自分は毎日ゆっくりから一生懸命練習しているのに中々速いフレーズが吹ける様にならないのに、あまり練習していない友人が何度か合奏をしている間に何となく速いフレーズが吹ける様になっている。
その友人は才能があって自分は才能がないのではないか・・・

これもトレーニング方法の違いに寄る結果なのです。
これに関しては才能は関係ありません。 
ゆっくり何度も練習している人は明らかに遅筋のトレーニングをしているのです。
それに対し合奏で慌てて吹いている人はいきなり速く吹かなければなりませんし、その為に集中しているので(結果的に)高負荷低回数の練習をする事になります。
つまり速筋が鍛えられているのです。

これは分かり易く極端な例を上げただけですので「練習せず合奏だけ出ていれば上手くなる。」と言っている訳ではありませんのでお間違いなく!
確実に技術を向上させる為には練習は欠かせません。

このトレーニング方法は文章ではなく「教則本」または「教則ビデオ」と言う形でないと説明出来ないので、ここで詳しく説明出来ないのが残念ですし申し訳なく思っています。



少なくとも私のレッスンでは確実に効果が出ています。
中高生は勿論年配の方にも効果がありますので是非広めて行きたいと思っています。
講習会や単発のレッスン等も引き受けていますので興味が有る方は是非ご相談下さい。



音大生やコンクール常連校の生徒さんにもこの方法で飛躍的に技術が向上した生徒が沢山います。
ただ殆どの生徒さんが学校で指導を受けている先生に内緒でレッスンを受けに来ているので具体的に公表出来ないのが残念ですが・・・

公表できる話ではこんな事があります。

趣味でサックスを楽しんでいる方が音楽教室に入会しました。
奥さんも娘さんもピアノの先生をしている音楽一家の様です。
家族で音楽を楽しみたいけれども自分だけ技術的に劣っているし、定年になり時間も出来たので「一度習ってみたら?」と家族に勧められて入会したそうです。
しかし、本人は「この歳から習っても上手くなるハズが無い。」と半分諦めていました。

基礎的な奏法を半年位かけて身に付けて頂いたところで「今度はチック・コリアのスペインを演りましょう。」と提案しました。
スペインは速いフレーズが連続する難曲です。
本人は勿論家族も「絶対無理」と思ったそうです。

最初は曲を吹く為に必要な速筋のトレーニングをした為(本人も家族も)何の練習をしているのか分からず不安気で私に対する不信感を感じた事もありましたが、本人達に取って未経験の事をしている訳ですからこれは仕方がありません。
この生徒さんも不安は持ちながらも信じて続けてくれたので結果はどんどん出て来ました。
ある程度速筋のトレーニングが出来たところで曲の練習に入った所狙い通りの結果が・・・皆が無理だと思っていたテンポで曲が吹けたのです。

この日を境にこの生徒さんはレッスンにデジタル・レコーダーを持ち込む様になりました。
理由を聞くと奥さんと娘さんが私のレッスンを聞いて参考にしてくれているそうです。

このスペインは発表会で娘さんと共演と言う形で発表できました。



速筋のトレーニングは定番のトレーニングとは随分違いますし、体質改善に近い部分もあり時間がかかる事も少なくありません。
信じてもらう事が一番大切になります。
信じて戴けなかった生徒さんの場合はやはり上手く行かない事が多いですね。
まだまだ力不足です。




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チューナーでは音を合わせられない [定説を考える]

最近は小型で高性能なチューナーが沢山販売されています。

この高性能なチューナーを使って音を合わせたのに実際に音を出してみたら音が合わないと言う経験をした方は多いのではないのでしょうか。
実はこれには理由があるのです。

金管楽器の人は良く知っていますが楽器の音には倍音と言う物が含まれています。
金管楽器の人達が同じポジションで幾つも音が出せるのは倍音の中で響く音を切り替えていると考えると分かり易いと思います。

Saxの場合も倍音を利用しています。
オクターブ・キーを押してオクターブ上がる時も倍音を切り替えているのです。
アルティシモ音域を吹く時やフラジオを吹く時も倍音を利用しています。

この倍音は(一番響いている音に消されて)普段は聴こえない様な気がしますが、正しく響いている時はいつも鳴っているのです。
実はこの倍音がチューナーに誤動作を起こさせる事があるのです。


これからは私の経験からの話なのですが、チューナーは倍音が物理的に正しく(バランス良く)鳴っている時に正しく表示するようにセッティングされている様です。
音程のある殆どの楽器が(管楽器、弦楽器etc.)正しく響いている時は同じ様に倍音が鳴るのでセッティングとしては問題ないのですが、チューナーを多用する人達の多くが初心者と言う事が問題になります。

初心者の多くは楽器をしっかりと鳴らせないかバランスが悪い状態です。
この様な状態でチューナーを使うと誤動作が起きるのです。
つまりチューナーでは合っているのに実際に音を出してみると音が合わないと言う事が起こるのです。

これは吹いている人が疑問を持つのでまだ良いのですが、チューナーで音が合う人の中にも問題を抱えた人がいます。
倍音が殆ど鳴っていない人です。
この様な人はチューナーで音が合えば実際の音も合うので一見問題が無い様に思えますが、倍音が鳴っていないと言う事は音に響きが無く高音も(無理な吹き方をしないと)出ないと言う事です。
この様な方はいくら練習しても中々上達しません。


やはり音に関しては耳で合わせる事をお勧めします。
チューナーもメーターを見て合わせるのでは無く実際に音を出してそれに合わせる練習をした方が耳も鍛えられますし、コントロール能力も身に付きますので実践的です。
そしてコンサートやCDで良い音を沢山聴く様にして下さい。

チューナーはそのサポート程度に使った方が効果的です。

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楽器を揃えると音も揃う? [定説を考える]

音を揃えると言う理由で楽器やマウスピース、そしてリードまで揃えてしまう話を良く耳にします。
では楽器を揃えると本当に音は揃うのでしょうか?

この答えを出すのは非常に簡単です。
皆さんが使っている楽器を二人以上のプロの方に吹いてもらって下さい。


まず驚くのが「これ自分の楽器?」と思う位楽器が鳴っている事でしょう。
そして別のプロに吹いてもらうと同じ様に楽器は鳴っているのに音色が違う事に驚くと思います。

つまり楽器の音色は演奏者個人が作るものなのです。
楽器を揃えても音色が合うと言う事はありません。

明るい音色を持った人が吹けばどんな楽器も(傾向として)明るめの音になって行きますし、柔らかな音色を持った人が吹けばどんな楽器も(傾向として)柔らかめの音色になります。

もし音色を揃えるのであれば明るめの音色を持った人には暗めの音色の楽器、柔らかな音色を持った人には硬めの音色の楽器、逆の人には逆の音色の楽器と言う様に一人々々違う楽器になるのではないでしょうか?

少なくとも楽器を揃えれば音色が揃うと言う事は無いと思います。

そもそもアンサンブルとは色々な音色の楽器を組み合わせて作って行く物です。
バランス良く鳴っていれば音色は違った方がアンサンブルをする上でメリットがある事も少なくありません。
ですから音色を(必要以上に)揃える事に神経質になる必要は無いと思います。


では音程はどうでしょう?
これはプロが楽器の選定(同じ機種)をしているところを見せてもらったり、自分と同じ機種の楽器を何本か吹いてみればすぐに分かると思います。
同じ機種ならば音色の傾向は似ていますが、音程に関しては楽器毎に皆違うハズです。

つまり楽器を揃えても音程が合うと言う事はありません。

仮に音程が全く同じ楽器が有ったとしましょう。
これらの楽器でユニゾンを吹けば音程は合うでしょうが、音域が違ったり(オークターブが違ったり)ハーモーニーになれば全く意味が無くなってしまいます。

それにアンサンブルをする際同じ種類の楽器だけで吹く事はありません。
サックス・アンサンブルでもソプラノからバリトン・サックス等同族でも違う種類の楽器を使いますし、吹奏楽では木管、金管、打楽器等沢山の種類の楽器でアンサンブルをする事になります。
一部の楽器の音程を合わせても意味がないのです。

音程は楽器が作るのではなく演奏者が状況に応じてコントロールするものなのです。


音程や音色を揃える為には一人々々の楽器コントロールが大切なのです。
その為には一人々々がコントロールし易い楽器を持つ事が大切になります。
これを強制的に揃えてしまうと人によってはコントロールがし辛い事も起こります。
コントロールし辛い楽器では音色も音程も合わせる事が難しくなってしまいます。
更に合っていない楽器、マウスピース、リードで身体を壊す事もあります。

そろそろ(安易な理由で)楽器を揃えると言う事はやめて欲しいと思っています。
プロが指導するのであれば楽器を揃える事を強制するのではなく、楽器をバランス良く鳴らし音程や音色をコントロールしアンサンブルする技術を教えて頂きたいと思います。

また、趣味で音楽を楽しむ方々にはそれぞれ事情があります。
音を揃える為と言う名目で高価な楽器を無理矢理購入させる様な事はヤメて頂いたいと思っています。
そんな事をしなくても音色や音程は合うのですから…

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